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タラの白子の吸い物

高校生の時、2年間ほど弁当屋でバイトしていたことがあった。 私が通っていた高校はバイト禁止であったのだが、当時ピアノを習い始めて 1年くらい経過していた私はどうしてもピアノが欲しくなり、そのために 家計が苦しいからと担任に偽ってバイトを始めたのだ。我が家は決して裕福では なかったが特に食べるのに困っていたほどでも無かった。だが、ブラスバンド 部で打楽器をしていた私は当時、音大に入学するのを目標としており、 音大の実技試験には専攻予定の打楽器の他に、副科ピアノとしてピアノの 試験もあったためピアノを習い始めたのだが、親が音大に進むのを 大反対していてピアノは買ってもらえなかったため、バイトをする以外に 選択肢は無かったのだ。

バイトしていた店は、街で唯一の弁当屋でしかも全国チェーンの店 だったためか、大変に繁盛していた。中でも一番の人気メニューは のり弁当で、バリエとして明太子のり弁やのり唐揚弁当などもあったが、 いずれにも共通の食材として白身フライがあった。その白身フライは、 今でもごく普通に見かける冷凍食品で、とびきり美味しい訳でも まずい訳でも無かったが、割と人気があった。

北海道で白身魚といえば、真っ先に思い浮かぶのはタラである。 私が子供の頃は、獲れて獲れてどうしようも無いくらいの魚で、巷では大変な安値 で売られており、時期になるとあちこちからお裾分けで貰ったりした ので、下手をすればお金を出して買ったりしたこと無いという家庭も あったくらいだった。

タラはとても淡白な魚で油分も少ないが大変味わい深く、 鍋物や汁物にしてもとても良いダシがでて美味しいのではあるが、 あっさりしすぎて若い人にとってはそれほど積極的に食べたいもの では無かった。それでもフライにすると油分がプラスされ、しかも ソースや醤油をかけたりしてはっきりした味になり、子供や 若い人も好きなメニューになるのだが、フライにするのは手間がかかる ため、海老やホタテならいざ知らず、たかがタラの為にそこまでしたく 無いという気が働いたのかどうか、タラの氾濫振りに比べるとタラの フライを口にする機会はそれほど多くなかった。

そんな情勢も手伝って、のり弁に人気があったのかも知れない。 また、幾ら商品名が「白身フライ」と箱に書かれていたとしても、北海道 の人間がそれの事をタラフライと呼んでしまうのも、至極当然のことで あり弁当屋の中でも巷でも、のり弁の白身フライは「タラフライ」と 呼ばれていた。

しかし、タラを食べなれている北海道の人間にとっては、その 「タラフライ」が今ひとつ旨味に欠ける事はうすうす感づいていた。 弁当屋でのバイト中、何かのキッカケで「タラフライ」の話になり、 「このタラフライって何か美味しく無いよね。家で作るともっと美味しい と思うんだけど、やっぱり大量調理冷凍食品の所為なのかなぁ。」と の私の発言におばさんチーフが一言。「だってタラじゃないもん。」 …へ?タラじゃ無いの?じゃ、何??「なんか箱には原材料ホキって 書いてある。」…ホキって何??「そんなの知らない。なんかの魚でしょ。」……。

そこの弁当屋では、その後も何事も無かったかのように 「タラフライ」と呼ばれ続けていたのだが、私はそれを聞くたびに 心の中でホキフライと変換しつづけ、同時に何か得体の知れない モノへの恐怖の念が沸き起こって来るのであった。

そのタラも今では漁獲量が激減してすっかり中級魚?に なってしまった。身よりも量が少ない内臓のタラコや白子に 至っては大変高価な高級品へステージアップする始末。子供の頃は 白子なんて飽き飽きしている上にグロテスクで見たくも無かったの であるが、大人になってから、私よりももっと大人の人に連れて行って 貰った本州のとある割烹でタラの白子が高級珍味の扱いを受けていた事にショック。 実家で度々作られていた白子のお吸い物も今となっては幻の一品だ。

タラの白子は、助宗タラ(安いので)の白子を使う。購入してきたらステンレス のボウルなどの匂いが移りにくい入れ物に入れて、タップリの塩を入れて よく混ぜる。ヌルヌルと泡だって来るがそのままラップをして冷蔵庫で 一晩寝かせる。次の日、その白子を水洗いしてゴミや臭みを流し、そこに再び 水を張って10分くらい塩抜きし、その後ザルにあげて水気を切って おく。鍋に適量の、昆布と鰹の合わせ一番だしを煮立て、みりんを入れてから 水切りした白子を投入しアクを取りながら数分煮る。火が通ったら味を見て、お好みで 薄口醤油少々で味をつける。基本的には白子の塩分だけで味付けは OKなので、醤油は様子を見て使う。何も味付けしてないのに塩辛かったら だし汁で薄める。簡単に作れる上にタラの濃厚なダシが効いた、ちょっと 珍しいおもてなしの一品である。


材料4人分タラの白子200g位・適当な量で
だし汁昆布多めに入れた鰹との合わせだし1L位。
ダシを取るのが面倒ならだしの素を使っても良いが、昆布だけは本物を使った方がいい。
調味料下処理に塩大匙2〜3杯
みりん・お好みで少し。お酒でも可
場合によって薄口醤油少々
作り方白子に塩を混ぜて冷蔵庫で一晩寝かせる
白子をよく水洗いし、数分塩抜きする
みりんを加えたダシ汁を煮立てて白子を入れ、アクをすくいながら数分煮る
最後に味をみて薄口醤油で調味
お好みで白髪ネギや針生姜、生麩などをトッピングすると良い

タラ白子のお吸い物


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