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鶏と大根の煮物

大根を調理するときの下ごしらえとして、米のとぎ汁で下茹で、 というのがある。これをすると、大根は甘くなり、水分もたっぷり含んだ ジューシーなものへ変わるのだ。

なぜ、とぎ汁で茹でるとこのようになるのか。一言で言えば、米の とぎ汁はコロイド状であるから、という事になるらしい。コロイドとは、 簡単に言えば、物質が溶けずに浮遊している状態を指すのだが、理科系 が苦手な私にしてみれば、ちっとも簡単ではなく、チンプンカンプン である。

そもそも溶けるとは、分子が一つ一つにバラバラになることを指すのであるが、 コロイドの場合はバラバラにならず、分子がくっついたままの状態で浮遊 していて、その分子は、粒子とも呼ばれるらしい。であるから、 ぱっと見、溶けているようには見えるのだが、実は細かく分散している だけと言う、実に紛らわしい事この上ない状態なのだ。そして、このようにコロイドが 浮遊している状態を「ゾル」と言う。コロイドにはたくさんのパターンが あるらしく、気体に固体が浮遊するもの(エアロゾル)や、液体に固体が浮遊 するものもあるが、前者の代表的なものは霧であり、後者の代表的なものは 牛乳であろう。そういえば、よく殺虫剤のスプレーなどは、エアーゾルなど と書かれているが、まさしくコロイドなのである。

たとえば食塩水のように、モノが完全に溶けている状態であれば、分子の 一つ一つはバラバラでとても小さいので、光は透過して透明に見える のだが、コロイドの場合は浮遊している粒子が大きいために、光が当たると 乱反射して跳ね返り、白っぽく濁ったように見える。牛乳などは、白っぽく どころかまさに白色なので大変イメージしやすい、コロイドの模範である。 しかも、液体に固体が浮遊するコロイドで、浮遊している固体が油、 すなわちオイルである場合は「乳化(エマルジョン)」の状態と言われ、 ここでも「乳」は大活躍だ。エマルジョンといえば、コマーシャルなどでも 時々耳にするが、化粧品などに使われている用語でもあるらしく、女の人 にとっては馴染みが深いのではないだろうか。乳液と言えば、万能なご利益 たっぷりで、肌にもよさそうなイメージである、牛乳のようにステキな液、 ということではなく、油を細かくして肌に留まりやすく加工した乳化液、 ということだと思われる。また、乳化の 身近な例としては、マヨネーズがある。マヨネーズも模範的なコロイドなのだ。 であるから、風呂上りのお母さんが息子に、「ちょっとエマルジョン 持ってきて!」と命令を下し、仮に息子がマヨネーズを持ってきたと したら、叱るのではなく、むしろ褒めるべきであろう。

コロイドは、粒子がたくさん浮遊しているために、吸着という 現象を起こす。料理をするときに、材料を細かく刻むと、材料の表面積が 増えるため速く味が滲みこむが、コロイドも細かくした野菜よろしく、粒子が 細かく表面積が大きくなっている状態なので、その表面にモノが付きやすく なる。脱臭剤である活性炭なども、無数の穴が開いていて表面積が広い ために臭いを吸着するのだが、これと同じ事なのだ。よく、レバーの 下処理として牛乳に浸しておく、というのがあるが、これはコロイドの 吸着によりレバーの臭みをとっているのである。

で、米のとぎ汁であるが、これもコロイドなので吸着が起こるのだ。 煮る事によって外へ出てきた大根の苦味やエグ味といったアクが、とぎ汁 の粒子に吸着されて、再び大根の中へ滲み戻るのを防いでくれる。 また、浸透圧の関係で大根がみずみずしいままで仕上がる。

濃度の違う液体同士には、濃度を一定にしようとする力が働く。細胞膜などの 透過膜を挟んで両方の液体が存在する場合は、濃度の薄い方から濃度の濃い方へ 水分が移動し、 濃度を同じにしようとする。野菜をサラダにするときなど、しばらく水に浸け ておくとパリっとするが、これは、野菜中の水分と真水を比べると、野菜の 水分の方が濃度が濃いので、真水が野菜の細胞内に入り込むためなのだ。 生野菜で食べるのなら、野菜の細胞膜はそのままなので、水分をタップリ 含んだまま何とか維持できるのであるが、加熱をすると細胞膜はもろくなってしまう ために、細胞内で飽和状態であった水分が、弱くなった細胞膜を突き破って外へ 出て行く。結果として野菜の水分が少なくなり、スカスカになってしまうのだが、 大根を普通のお湯で茹でると、この現象が起きて大根の中の水分が減ってしまう。 逆に、野菜の細胞内よりも、ずっと濃度の濃い液体で茹でると、 今度は細胞内から水分が、より濃い液体である煮汁へ出て行ってしまう ので、これまたスカスカになってしまう。であるから、大根などを下茹で する液体は、濃度が濃すぎても、薄すぎてもダメなのだ。この点、米のとぎ汁 は、濃度が濃くも薄くも無く、大根と茹で汁の間の水分移動を最小限に抑えた たまま、加熱する事が出来るという訳なのだ。

しかし、大根を煮るときは必ずこの方法が合うとも限らない、と 個人的には思う。おでんや、薄味の煮物にするのなら、米のとぎ汁で 下茹でした方がジューシーで美味しいと感じるが、ぶり大根などの、 濃い味付けで大根を煮るなら、逆に生のまま直接煮汁で煮た方が、スカスカ になった大根の中に良く味が滲みるので、私の好みである。大根がジューシー であるという事は、中に水分がたくさん含まれているということであり、 水分が多ければ多いほど、味は滲みこみにくくなるはずだ。実際、おでん等は、 1時間やそこら煮ただけでは、大根の中まで完全に味は滲みない。 「大根の下茹では米のとぎ汁ですると、味が滲みやすくなります」と よく言われているが、私の経験からすれば、逆じゃないの?と言わせてもらいたい。

今回のレシピでは、煮汁が普通に飲めるくらい、薄味で煮ている ので、大根は米のとぎ汁で下茹でして使う。こってりと甘辛く煮付け るのも大変美味しいが、その場合は大根は下茹でせず、直接鶏肉と 炒めて、そのまま煮てしまう方が美味しい。


材料1回分鶏もも肉300g程1枚・一口大に切り、フライパンで焼いておく
大根2分の1本・縦半割にしてから乱切りにして、米のとぎ汁で15分くらい下茹でしておく
調味料昆布・3cm
みりん・大匙1
砂糖・大匙2
薄口醤油・大匙3
鰹出し汁(ダシの素でも)・材料がかぶる位
鷹の爪・1本
作り方下茹でした大根をさっと洗って、焼いた鶏肉とともに鍋にいれ、昆布とかぶるくらいの出し汁を注ぎ、火にかける
みりん・さとうを入れて少し煮てから、残りの調味料をすべて入れ、15分くらいに弱火で煮込む
蓋をして火を止め、1時間以上そのまま冷まして完成
備考味付けが面倒くさい場合は、めんつゆを、かけうどんの出しくらいに薄めて砂糖を少し足して使っても良い

説明


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